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前社長とキーパーソン

前の社長の承認が要る会社は、退任のあと止まりやすい。100日のうちに決めておくこと

買収した会社で、値引きも発注も支払いも、前の社長の一言で決まっていたと分かることがあります。前の社長が退くと、その一言を出す人がいなくなります。この記事では、誰が何を決めているかを100日のうちに洗い出し、承認を移していく手順を整理します。

公開 2026.10.13編集 買収後100日ノート編集部(株式会社TechWorker)読む時間 約6分
前の社長が決めていた承認を一覧表に書き出し、代わりに決める人と期限を書き込んだ表紙

前の社長が退いた翌日に、何が止まるか

中小PMIガイドラインには、営業や生産などの意思決定を全て前の経営者が承認していたため、退任後に現場が止まった失敗例があります(P.53)。承認の流れは書類に残りにくく、成立前の調査では見えにくい項目です。

ガイドラインの基礎編「事業の円滑な引継ぎ」(P.53)には、成立後に起きた失敗例がいくつか並んでいます。その1つが、営業や生産などの意思決定を全て前の経営者が承認していた会社の例です。前の経営者が退任したあと、現場が止まりました。

同じページには、資金管理を担っていた前の経営者の配偶者が退職し、支払いが滞った例もあります。承認する人と、お金を動かす人が、社長とその家族に集まっている会社では、2人が同時に抜けると止まる業務が増えます。

社長が1人で決めてきた会社では、承認が規程に書かれず、慣行で回っていることがあります。見積の値引き、仕入先への発注、急ぎの支払い、取引条件の変更などを、社長が口頭で決めている場合です。こうした承認は、稟議書や決裁の記録には出てきません。

止まる業務を防ぐには、前の社長が退く前に、誰が何を決めているかを書き出す必要があります。この作業は、P.18 が100日を目途に挙げる「成立後の現状把握」に入ります。

前の社長に、いつまで残ってもらうか

在籍期間と役割は、成立前に決めておきます。決めないまま残ってもらうと、改革の抵抗勢力になった例がガイドラインにあります(P.43)。

承認を移すには時間がかかります。前の社長に一定の期間残ってもらい、承認を1つずつ移していく進め方が考えられます。このとき、いつまで、何をしてもらうかを決めずに残ってもらうと、承認を移す期限も決まりません。

ガイドラインの信頼関係の章には、前の経営者の在籍期間を決めておらず、前の経営者が改革の抵抗勢力になった失敗例があります(P.43)。在籍期間を決めるときは、次の3つを一緒に決めておきます。

  • 在籍する期間と、退く日。
  • 在籍中にしてもらうこと。承認を移す、取引先へ同行する、聞き取りに答える、などです。
  • 在籍中に、前の社長が決めてよいことと、決めないこと。

顧問として残してもらう場合

退任後に顧問として残ってもらう形もあります。ガイドラインは、顧問としてこれまでどおりの勤務形態と報酬で手伝ってもらう場合に、成立時に役員退職金を払うと、税務上退任の事実が認められず、損金性が否認されるおそれがあると注意しています(P.45)。顧問としての役割や処遇は、税理士などの専門家と事前に確認してから決めます。

顧問として残る前の社長に、退任前と同じ承認を続けてもらうと、承認を移す作業が進みません。顧問の役割は、相談に答えることと、引き継ぎを手伝うことに絞っておくと、一覧表の期限と矛盾しなくなります。

誰が何を決めているかを、どう洗い出すか

承認の一覧表を作ります。書類から拾い、現場に聞き、最後に前の社長本人に確かめる順で埋めます。

一覧表は、表計算ソフトの1枚で作れます。持ち主は、買い手側の PMI 責任者に決めておきます。部署ごとに別々の表を作ると、同じ決めごとが二重に書かれたり、抜けたりします。埋める順番は次のとおりです。

  1. 書類から拾う。 稟議書、発注書、支払いの依頼書、見積の控え、銀行の手続きの書類を見て、誰の印や名前があるかを書き出します。
  2. 現場に聞く。 各部署の担当者に、誰の判断を待つ場面があるかを聞きます。書類に残らない口頭の承認は、ここで見つかります。
  3. 前の社長に確かめる。 1と2で書き出した一覧を見せ、抜けている決めごとや、金額や相手によって判断を変えている決めごとを聞きます。

書類から始めると、聞き取りの前に話の土台ができます。前の社長には、書き出した一覧を見せながら確かめます。一覧があると、抜けている項目に気づいてもらいやすくなります。

一覧表に作る欄

欄書くこと
決めごと見積の値引き、発注、支払い、採用、取引条件の変更など
いま決めている人前の社長、配偶者、古参の従業員など
根拠規程にある、慣行、口頭のみ、のどれか
条件金額や相手によって判断を変えているか
代わりに決める人100日のうちの暫定の承認者
移す期限何日目までに移すか
確かめた日前の社長と現場に確かめた日

根拠の欄で「口頭のみ」が付いた行は、退任と同時に消える承認です。この行から順に、代わりに決める人を埋めていきます。

記入のしかたを、架空の例で示します。

決めごといま決めている人根拠代わりに決める人
見積の値引き前の社長口頭のみ営業の責任者
仕入先への発注前の社長慣行購買の担当者と PMI 責任者
振込の最終確認前の社長の配偶者慣行経理の担当者と PMI 責任者の2人
採用の可否前の社長口頭のみPMI 責任者

お金を動かす行は、1人に寄せず2人で確かめる形にしておくと、誰か1人が抜けても支払いが止まりにくくなります。

見落としやすい承認

一覧表を埋めるとき、次の3つは抜けやすい項目です。

  • お金を動かす権限。 銀行の届出印、ネットバンキングの承認、振込の最終確認を誰がしているか。P.53 の配偶者の例は、この項目に当たります。
  • 例外の判断。 通常の手順から外れた注文や、支払いの猶予を、誰がどう決めてきたか。
  • 社外との約束。 主要取引先との取引条件や、金融機関との関係を、前の社長が個人で持っていないか。

金融機関との関係では、経営者保証に注意します。中小M&Aガイドライン第3版は、経営者保証の解除や移行ができるかは金融機関が判断し、正式な手続はクロージング後になりうると書いています(P.50〜51)。前の社長の保証が残っている間は、一覧表の「社外との約束」に残しておきます。

ガイドラインの失敗例と、100日のうちに打っておく対策。承認、支払い、在籍期間、顧問の4つの場面です。

承認を、誰に、どの順番で移すか

100日のうちは、暫定の承認者を決めて業務を止めないことを優先します。権限の分散と規程の整備は、1年の計画の中で進めます。

ガイドラインは、権限の分散と規程の整備を、発展編の経営統合の中で扱っています(P.64)。基礎編は主に成立後100日〜1年程度の取組と位置づけられています(P.39)。規程を整えてから承認を移そうとすると、それまでの間に業務が止まるおそれがあります。

そこで、承認の移し方を2段階に分けます。

段階時期の目安やること
暫定100日のうち一覧表の行ごとに、代わりに決める人を決めて周知する
本格100日目以降、1年の中で金額や種類で承認の区分を決め、規程に書く

暫定の段階では、前の社長が在籍している間に、代わりに決める人と並んで判断してもらいます。同じ案件を2人で見て、判断の理由を聞いておくと、前の社長が退いたあとも同じ基準で決めやすくなります。

本格の段階では、一覧表の「条件」の欄が役に立ちます。前の社長が金額や相手で判断を変えていたなら、その区切りが規程の承認区分の下書きになります。

代わりに決める人を、社内と取引先に伝える

暫定の承認者を決めたら、社内に周知します。現場が、誰に判断を仰げばよいかを知らなければ、前の社長に電話をかけ続けることになります。周知は、前の社長の口から伝えてもらう方法もあります。前の社長が新しい承認者を認めていることが、現場に伝わります。

取引先との窓口を前の社長が持っていた場合は、取引先にも伝えます。ガイドラインには、主要取引先への事前説明を怠り、取引を縮小・停止された例があります(P.49)。窓口が変わることを、前の社長と新しい担当者がそろって伝える段取りを、一覧表の期限に合わせて組んでおきます。

前の社長が退いたあとに、迷う案件が出たら

一覧表にない決めごとは、退任のあとにも出てきます。こうした案件は、誰に上げるかを先に決めておきます。顧問として残ってもらう場合は、相談できる範囲と期間を決めておき、判断そのものは代わりに決める人が行います。出てきた案件は一覧表に行を足し、次に同じ案件が出たときの承認者を書いておきます。

100日のうちに決めること、あとで決めること

在籍期間、暫定の承認者、お金を動かす権限は、100日のうちに決めます。承認区分の規程化は、100日目の見直しで1年の計画へ回します。

100日のうちに決めておくことを、チェックリストにまとめます。

  • 前の社長の在籍期間と、退く日が決まっている。
  • 在籍中の役割と、決めてよいことの範囲が決まっている。
  • 顧問として残す場合、処遇を専門家と確認している。
  • 承認の一覧表があり、「口頭のみ」の行に代わりに決める人が入っている。
  • 銀行の届出印や振込の承認を、誰が持つかが決まっている。
  • 代わりに決める人を、社内に周知している。

承認を持っているのは、前の社長だけとは限りません。古参の従業員が、慣行として値引きや納期の判断をしている場合もあります。一覧表の「いま決めている人」の欄には、社長以外の名前も書けるようにしておきます。ガイドラインには、従業員の担当業務を把握しておらず、退職で技術と取引先を失った例もあります(P.53)。前の社長の承認と同じ一覧表で扱っておきます。

100日目には、一覧表の「移す期限」を過ぎた行が残っていないかを確かめます。残っている行は、なぜ移せないかを前の社長と話し、1年の計画に組み込みます。

出典

  1. 中小PMIガイドライン(中小企業庁、令和4年3月)P.18、P.39、P.43、P.45、P.49、P.53、P.64 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf
  2. 中小M&Aガイドライン 第3版(中小企業庁、令和6年8月)P.50〜51 https://www.meti.go.jp/files/900016275.pdf

この記事の作り方:中小企業庁などの公的な資料を読み、記載のページを確かめて書いています。下書きには生成AIを使い、編集部が資料と照らし合わせて確認しています。制度は改定されることがあるため、手続きの前には必ず原典と窓口でご確認ください。